ペットの飼い主はどんなことに困っているの?
ペットに関する仕事ってどんな感じ?
こんな疑問にお答えします。
冒頭のような疑問に答えるため、"ペットに関わる仕事をされている方"にインタビューしてきました!
今回お話を伺ったのは、動物のリハビリの仕事をされている浜田あゆりさん。
フリーランスで東京都世田谷区のアルマ動物病院に併設するリハビリテーション施設「CLUB ALMA」で従事。また、訪問マッサージや、お家でできるフィットネスのサポートなど、犬の飼育を中心にサポート中。
浜田さんのすごいところが、今の動物病院で活動するため、獣医師さんに5年もの間交渉・アピールし続けたとのこと。
こんなにも長い時間を要したのには、業界的な背景が理由にありました。
動物に関わる仕事をする際の資格には、大きく「国家資格」「民間資格」があります。
代表的な国家資格が「獣医師」で、動物の病気や怪我などの治療行為全般を行い、病院における仕事について大きな裁量を持ちます。
民間資格には「動物看護士」「小動物介護士」など色々ありますが、できることは限定的。
そのため特に病院内では獣医師の裁量が大きいのです。
※ ペット関連資格については、以下の記事で紹介されています↓
欧米諸国では獣医療者以外と協力体制を結んでいることも多いようですが、日本では歴史が浅く、協力体制を作った例が多くありません。
そのため獣医療者以外と協力の歩みを進めるには、獣医師の理解と信用が必要なのです。
このような背景があったため、浜田さんは主体的に獣医さんに働きかけて根気強く理解を得る必要がありました。
その努力の結果、現在は病院と民間がタッグを組んでいる、日本では先進的な場で活躍されています。
そうやって自らの力で道を切り拓いてきた浜田さんだからこそ、得られた経験・見える景色があります。
というわけで今回は、そんな浜田さんの動物のケアに関する仕事の話と、現状のペット業界の課題について、お伝えします!
浜田あゆりさんへのインタビュー「人どうしが手を取り合って、動物との暮らしをよりよいものにする」
今の活動を始めたきっかけ【愛犬のことで困っている人に自分の経験を伝えたい】
今の活動を始めたきっかけはなんだったのですか?
私はもともと田舎の山の中で、いろんな動物に囲まれて暮らしていました。
田舎では動物たちをずっと家の外で飼っていたのですが、東京に来たら家の中で飼うのが当たり前なんですよね。
愛犬のチョコを迎え入れた時、(家の中での)飼い方が分からないという問題に直面しました。
田舎で動物を飼っていた時にはなかったルールや知らないことがたくさんあって。
確かに犬を家で飼うのに覚えるべき知識って、たくさんありますよね。
(※ 僕も実家で犬を3頭飼っていました)
そうなんです。
そしてある日、チョコにケガをさせてしまいました。
後肢が麻痺をして一時的に歩けなくなってしまったんです。
浜田さんの愛犬チョコちゃん
そこから「飼い主が犬にできることってなんだろう?」と考えて、調べるようになりました。
すると犬のマッサージというのがあることを知り、講座を受講して資格を取得したんです。
そういった経験があって、「他にも私と同じように悩んでいる人がいるのではないか」と思い、自分が得た知識や経験を伝える活動を始めました。
所属する協会(※)でセミナーやイベント、訪問してマッサージなどをしてきました。
主にペット業に携わる人に向けて、民間資格の制定、講座やセミナーによる支援活動などを行っている民間組織のこと。
飼い主のよくある悩み【犬のためにしているつもりが逆効果になることも】
飼い主さんはどういうことに悩むことが多いんですか?
動物が病気や怪我をした時に、自分たちで対処できなくて「自宅では何ができるんだろうか?」「何をすればいいんだろう?」と悩んでいる方が多いですね。
例えば、ヘルニアになり病院で「安静にさせて」と言われて、「触ったら痛いんじゃないだろうか」と抱っこする事もできなくなってしまった方がいました。
確かに、僕も安静にと言われたら極力触らないようにしてしまいそうです。
そこで「今、犬に何ができるんだろうか?何をしてあげればいい?」と私に連絡があって。
自宅に会いに行ってみたら意外としっかりと歩いていたので、マッサージや簡単な運動などできることを伝えました。
大事にしすぎてケアを何もしないでいると体が弱ってしまったとか、病状を悪化させてしまうケースもあるんです。
他にも「手術の後から片足を使わなくなっちゃったんだけど、どうすればいいのか分からない…」と悩む方がいて。
そういった場合は、ちゃんとリハビリをしてあげればある程度は使えるようになるんです。
獣医さんに「足を使うように運動させてあげてください」と指示されるのですが、どんな風に行うのか、どんな方法があるのか細かな説明がない場合も多いのです。
その場合知識がないと、散歩を長くして対応しようとすることが多いのですが、散歩だけでは十分ではありません。
また散歩の仕方についても、太っているワンちゃんの場合は関節に負担がかかっているかもしれないし、シニアになったワンちゃんの場合は加齢によって関節を痛めていると長い散歩はできません。
関節をかばって歩いてしまって、次は腰を痛めてしまうことにもなりえます。
という感じに、犬のためにしているつもりが逆効果だったり、犬の調子が悪くなった時に何をしたらいいか分からない、って人が意外と多いんです。
犬のために良かれと思ってしていることが逆効果になってしまうのは悲しいですね…。
犬の状態や体に合わせてケアをしなければならないんですね。
活動をする中で、私は色々な資格をとりました。
口コミで「こんな資格が良いらしい」「こんな資格もあるよ」というのを聞くんですよね。
何がいいのか、どれが自分に合っているのかを知るために、実際に勉強して確かめることにしました。
例えばマッサージでも3つくらい学んでみて、どれが私やうちの犬に合っているのかを試してみたんです。
そうすると、合うやり方というのが段々と見つかってきました。
よく「どんな資格を取るべきか」という質問を受けるのですが、「こういう特徴があるよ」「こんなメリットがあるよ」とアドバイスするのに、色々な資格をとった経験が役立っています。
いろいろな資格・協会がありますが、"動物のために行う"という根っこの考え方はどこも同じなんです。
動物のために自分が無理なく、気負わずできることを探すのが一番だと思います。
日本のペットのリハビリ施設は欧米に比べて充実していない
そういえば、ペット業界の環境面や文化面については欧米の方が進んでいると聞いたことがあるのですが、どういったところが進んでいるんですか?
欧米では動物用の施設が充実しています。
ペットのリハビリ施設があり、ペットにマッサージをすることなどが当たり前に根付いているんです。
人が整体に行く時に選択肢としていろんな医院があるのと同じような感覚で、ペットのための施設が普通にあるそうです。
日本でも犬のプールとかフィットネスも増えてきているんですけど、まだまだそういった施設は少ないですね。
日本ではリハビリは獣医と人の理学療法士が行ないます。
でも専門的に理学療法を行っている獣医はまだ数十名ほどしかいません。
リハビリを行うには獣医師の元でチームを組んで行いますが、残念ながら日本ではリハビリを行っている病院も少ないのが現状です。
獣医師と提携してリハビリを行なっている民間の施設もありますが、こちらも多くありません。
また、ペットのケアについてアドバイスをしてくれる人が少ないのも課題です。
食事やトレーニング、運動、マッサージなど毎日の生活の中で必要なホームケアについて知りたいと思っても、「誰に聞けばいいのかわからない」という飼い主さんもいます。
私自身もまだまだ勉強中ですが、そういう飼い主さんに、私の経験がヒントになってくれればといいなと思います。
課題はまだまだ多いですが、日本でも動物のリハビリが当たり前にできるようになってほしいと思っています。
現在の主な活動【飼い主と獣医さんの橋渡し役として活躍】
浜田さんの愛犬たち:左から、チョコ、ココア、クッキー
(撮影:inu*maru)
浜田さんの今の活動内容を聞かせてください。
動物病院併設のリハビリ施設での活動が主で、施設でマッサージを担当しています。
獣医と獣医療者ではない民間資格者が手を取り合ってやっている所はまだまだ少ないと思います。
なので私の今の状況はとてもラッキーで、それを受け入れてくれた病院には感謝しています。
また、今の私の立場だからこそできる役目もあると感じています。
私がマッサージをしているときに飼い主さんと世間話的に話をしていると、家での生活の話や悩みが会話に出てきます。
するとなかなか獣医さんには言いづらいことだったり、診察では出てこない日常生活の情報をキャッチすることができるんですよね。
その中に、その犬の症状にとって重要な情報が含まれていることがあるんです。
例えば、皮膚が赤くなって治療にきた犬がいたんです。
皮膚の状態が良くなったのに、薄毛のままで原因が分からない状況でした。
でもある日マッサージの時に飼い主さんと会話をしていたら、トリミングの話になったんです。
「この子、毛をすいてもらってるの」という話を聞いて。
実はその犬は病気で毛が生えてこなかったのではなく、毛をすいていたために毛が薄かったんですね。
飼い主さんはその情報を隠していたわけではなくて、毛をすくことは"その子を飼ってからずっと当たり前のことだった"から、獣医さんには伝えていなかったんですよね。
診察のわずかな時間では、こういった日常の行動を全てキャッチすることは難しいんです。
看護士さんもいるけど、病院内でじっくり話すことはなかなかできません。
そこで私がキャッチした情報を獣医さんに共有することで効果的な治療に繋げる、橋渡し役のようなことをすることができています。
病院との良い連携の例ですね!
あと、私自身が病院で活動する方がやりやすいこともあります。
カルテを見せてもらえるので、犬が今どういう状態なのかがわかり、それに合わせたマッサージやケアをする事ができます。
情報を共有することで、お互いにとてもスムーズにできるので、すごくありがたいです。
だからこのような連携が広まって、私のような役割の人がもっと増えると良いな、と思います。
そうやって連携をしたほうが病院側のサービスとしてもより充実しそうですけども、なんであまり進んでいないんですか?
獣医療者以外との連携をしている獣医さんはまだまだ少ないです。
日本では「西洋医学」「東洋医学」「自然療法(代替え療法)」とか、分野が分かれてしまっていて、これらが合わさって取り組んでいる病院は少ないです。
専門獣医さんが少ないこと、あとは取り入れるかどうかは獣医の判断次第なんだと思います。
私は柔軟に良いところはどんどん取り入れていってほしいなと思っています。
そうですね、そのほうが可能性が広がりそうです。
私が今いる病院には、もともとうちの犬のかかりつけの病院として10年近く通っていて。
「病院でセミナーをさせてください!」と志願していたんですが、なかなか興味を持ってもらえなかったんですね。
でもそれをずっと続けていたら、看護師さんの後押しもあって院長が徐々に興味を持ってくれるようになって、活動にも耳を傾けてくれるようになったんです。
それから院内で行っている勉強会に参加させてもらったり、研修期間を経て、今に至ります。
今では、週3回マッサージに来ていますが、ここまでになるまで"5年"掛かりました。
5年間もアピールし続けてようやく今の活動の場があるのですね。
浜田さんのような活動がモデルケースになって、色々な場所で採用されていくといいですね!
そうですね。
病院が協力・連携し合うような関係性をもっと広げていきたいです!
飼い主の課題【犬たちを観察する力を持つことが大事!】
私は犬たちのために、必要に応じて柔軟に手法を選ぶのが大事だとすごく思っています。
飼い主さんも教えていただいた先生のことをすごく信じてしまい、「こうでなきゃいけない!」と思い込んでしまいがちです。
例えば今までと同じ食事にしていたのに、ある日ごはんを食べられない状況になってしまった場合、しっかりと犬の状態を見て対処することが大事なんです。
でも「先生に生食が良いって言われたから」と聞く耳を持ってくれない方も多くて。
1つの事に凝り固まらず、柔軟に対処できる飼い主さんが増えたらな、と思っています。
お医者さんの言うことに凝り固まっちゃう気持ちもわかりますね。
人間の病気でも、同じような状況になってしまうことがある気がします。
そうなんですよ。
人間だったらどのあたりが調子悪いかとか、言葉で聞きながら対処することができるじゃないですか。
でも、動物ってそれを言ってくれません。
足が不調になっていても、立ち上がった時に痛いのか、歩いた時に痛いのか、どこが痛いのか、言葉では伝えてくれないんです。
なので「びっこをひいている、歩けなくなった」とか目に見えて具合が悪くなった後に病院に行くことになってしまいます。
毎日の生活の中でいつもと違う様子にもいち早く気づくためには、"犬たちを観察する力を持つこと"がとっても大事なんです。
今私がやっているマッサージのセミナーでは、まず犬を観察するところから伝えています。
次に骨や筋肉などの基礎的な体の仕組みを伝え、どの筋肉を使っているのかなど、実際に犬を触ってもらいながら犬の体のことを理解してもらうようにしています。
そうすると、体の様子を見て状況に合わせた効果的なマッサージをすることができるようになるんですよね。
そうやってマッサージをすることで、犬とのコミュニケーションにもなります。
「観察する時間と目を持って!」というのは飼い主さんにうるさいくらい伝えていますね。
観察というのは、その対象のことを知ろうと思わないとできないですもんね。
そういう風に飼い主が「自分の犬のことを知ろう」と言う意識を持ったら、犬との関係性もよくなりそうですよね。
すっごくよくなると思います!
欧米の犬って、人と一緒にバスとかにも乗れるんですよね。
欧米では人と犬は対等です。
飼い主は犬の体のことを理解していて、共生するためのトレーニングもあたりまえのように行います。
そして常に犬を観察しているから、自分の犬がどういう調子かが分かるんだそうです。
日本ではもともとそういう文化がなくて、昔は犬や動物のことを下に見ている感覚が強かった。
日本でも犬の事を理解している飼い主さんもいますが、生き物として対等に見ることのできていない飼い主さんもまだまだ多いように思います。
犬が言うこと聞かない、とかいうのも人が動物をコントロールしたいという意識が根にあるのかもしれませんね。
この意識が改善されたら、ペットを逃がす、逃げ出してしまうなど、外来種問題にも良い影響があるように思います。
動物に対して一方的な想いをぶつけると、動物側も反発したり、あきらめてしまうんですよね。
人間側の押し付けや思い込みで、動物の気持ちに気付けないことが多いと思います。
私の田舎の家にはワニもいたんです。そこまで大きくならないワニでしたけど。
ワニは兄が飼っていたんですが、私が餌をあげるときは噛まれるので菜箸とかで餌を与えてました。
だけど兄には噛んだりしないので、手で餌を与えていましたね。
それはやはり、そのワニのことを一番理解していたのが兄で、兄とはコミュニケーションが取れていたんだと思います。
犬もいきなり噛み付くことはなくて、怒鳴ったり、威嚇をしたり、いきなり手を出してくる人に噛み付くことが多いです。
犬が吠える、噛む、そこには必ず何かしらの理由があるんです。
自分の身や場所を守るための行動なんですよね。
動物側の気持ちを理解することも動物と共生するには大切な事だと思います。
大きな動物でなくても、虫だって一緒ですね。
ハチなども何でも刺す訳ではなくて、自分や巣を守るために刺すので。
犬以外にも、亀や金魚も、最初は小さかったのが大きくなって飼いきれなくなって逃がしたり。
これは人間と同じ生き物として見ているのではなく、モノとして見てしまっているからだと思いますね。
飼える環境でないのなら、生き物は飼うべきではない、とすごく思います。
また、最近はペットが犬から猫や爬虫類などの小動物と移っていて。
小動物に移っている理由の一つに、飼うのが簡単だからという理由が多いことが気になります。
犬を飼うのは散歩が面倒とか、毛が抜けて嫌だとか、吠える、トイレ問題など、ですね。
責任を持って飼うことのできる大きさの動物、という理由であれば良いんでしょうけど、そういうケースばかりではないでしょうね。
小動物でも、命あるものを育てるのが大変であることには変わりないんですけどね。
飼う側が"動物は小さくても命のあるもの"という意識を持つ人が増えて、逃がしたり捨てるようなケースが減って欲しいですね。
「犬や動物に関する総合的なコミュニティ」を作りたい
(撮影:inu*maru)
今後やりたいことはありますか?
ゆくゆくは犬や動物に関する総合的なコミュニティを作っていきたいです。
ここに来ればいろんな分野の専門家から、しつけや食事、リハビリなど、ホームケアの事ならなんでもできる、そんな場です。
もちろん、獣医さんとも連携を取っていきたい。
"人どうしが手を取り合って、動物との暮らしをよりよいものにする"、そんな場を作れたらと思っています。
それぞれの得意分野を活かして役割分担できたら素晴らしいですね!
実はそういった想いを持っている人が身近に何人かいて、今まさに動き始めようとしている所なんです。
おわりに
僕が今回の浜田さんへのインタビューで特に印象に残ったのは「犬たちを観察する力を持つことが大事!」でした。
動物のことを知ろうとする気持ちこそが、良い信頼関係を築くための源泉になると思います。
僕も実家にいる犬たちのことももっとよく観察して、彼らのことをより理解したいと思います!
ちなみに浜田さんに「同じような活動されている方で悩んでいる方がいたら、問い合わせしても大丈夫ですか?」と伺ったところ、
もちろん!気軽に相談してほしいです。
私のような動物のケアをされている方からも、他の犬仕事をしている方からも、飼い主さんからも、いろいろな話を聞くことはお互いに勉強になると思います。
疑問をもったままよりも話しあえる仲間ができることが、私の目指すコミュニティにもつながります。
私のような動物のケアをされている方だけでなく、飼い犬についての困りごとなども気軽に相談してください。
とおっしゃっていました。
ペットに関することでお悩みの方は、ぜひ以下のページから浜田さんに問い合わせしてみてください。
この記事が、少しでも動物のことを考える方の役に立ちましたら嬉しいです。
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