ツルはみんなが知っている鳥なのに、本物は見たことがない…。
ツルってどこで見られるの?
こんな疑問にお答えします。
日本人のほとんどが知っている鳥、ツル。
ツルは知名度の高い鳥で、かつては全国で見られる鳥でした。
しかし今は残念ながら、主に北海道と九州の一部でしか見られない鳥となってしまったのです。
そんなツルたちの生態や行動などを知るため、鹿児島県にある「出水市ツル博物館 クレインパークいずみ」を訪れてきました。
ブログにて紹介する許可をいただきましたので、今回はこちらで伺ったお話をもとに、ツルの現状と保護の取り組みについて紹介します。
僕はネイチャーエンジニアの亀田です。
年間100回以上全国各地で生き物観察をし、様々な野鳥に出会ってきました。
そんな鳥好きの僕が、ツルの現状と現状の保護の取り組みを紹介します。
鹿児島県出水市に訪れるツルたち
鹿児島県の出水平野は多種のツルが越冬のために飛来する地で、冬は1万羽を越えるツルがやってきます。
特に飛来が多いのは、ナベヅルとマナヅル。
ナベヅルは世界の生息数の90%ほど、マナヅルは半数ほどが訪れる、超重要な越冬地なのです。
白とグレーの羽が印象的なナベヅル
グレーのグラデーションが美しいマナヅル
ナベヅルとマナヅルは渡り鳥です。
渡り鳥というのは、季節によって海を越えるような長距離移動をする鳥のこと。
上記のツルたちは夏はロシアの湿地で繁殖活動をし、冬になると朝鮮半島を伝って日本に渡来。
以前は日本全国に飛来していたようですが、今は残念ながら九州の一部地域以外で彼らツルを見ることは稀になってしまいました。
だからこそ、出水平野はツルがまとまって訪れる地として、非常に重要な場所なのです。
ナベヅルとマナヅルを含む日本ツルたちについては、以下で紹介しています。
ツル博物館 クレインパークいずみとは
僕が訪れて話を伺ったクレインパークいずみは、ツルの博物館。
出水平野にやってくるツルたちの情報や資料を展示しています。
クレインパークいずみ
施設の周りは草原のような景色になっていますが、こちらはツルたちの営巣地をイメージしたものとのこと
ツルたちの生態や習性はもちろん、歴史やツルに対する保護活動の取り組みを展示されています。
マナヅルの展示
ナベヅルの営巣に関する展示
僕が訪れた時はツルに関する活動内容など質問などもあったので、直接お話を聞けるか確認したところ、とても丁寧に説明・対応いただきました。
(ありがとうございました!)
クレインパークいずみは、野鳥の生態に興味のある方であれば、知見が広がる情報をたくさん見ることができる施設ですよ!
鹿児島県出水市でのツルの歴史と取り組み
ツルの歴史
出水平野におけるツルの歴史の始まりは、1700年代に出水平野が干拓事業を開始したことでした。
これによって干拓地ができたことをきっかけに、出水平野にツルたちが飛来するようになったのです。
※干拓地=浅い海を堤防で囲い、干上がった陸地を農地にしたもの
しかし、その後今に到るまでツルには様々な受難がありました。
・戦争の食糧難による、ツルの狩猟
・開発の波による、全国各地のねぐらの消滅
このように、人間の生活環境の変化によって、ツルたちは数多くの影響を受けてきたのです。
ツルを守るための取り組み
出水市ではツルを守るために「ツルと人との共生をめざして」と掲げ、様々な取り組みを行なっています。
以下で現在の取り組みの数々を紹介されています↓
例えば干拓地はツルにとって重要な越冬地になっています。
しかしここはもともとツルを呼び寄せるための土地ではなく、農地として切り拓いたもの。
ツルの飛来数が増えると、農作物の食害が発生します。
そのため、農家の方々にとっては、ツルの飛来数が増えることは喜ばしいことだけではありません。
かつて出水市では、「ツルが大事か、人間が大事か」という農家の方々との対立を生んでしまった歴史もあります。
ツルが飛来するような自然環境豊かな地になれば、街のイメージはよくなり、街も活性化するでしょう。
また数値や明確な結果としては現れないかもしれませんが、自然豊かな地域では、人工物以外の様々な刺激を受けることができ、お金で得られるものとはまた違う、豊かな生活が得られると思います。
しかし、それらが良いと思えるのは目の前の生活が成り立ってこそ、というのも事実。
そんな対立を解決するため、出水市では「ツルに対する給餌」をすることで、農作物への被害を減らす対策をしました。
餌に集まったツルたち
また干拓地の「休耕地の借り上げ」を行なって保護区(ツルのねぐらを設置)とし、農家の方々に借り上げ期間中の保障をするように。
これらの施策によって、ツルと人間の生活の両立を図りました。
それを継続することによって、今では毎年1万羽以上のツルたちが飛来する地となっているのです。
出水市の「共生」の考えの素晴らしいところ
僕は博物館で出水市の取り組みを知って、その「共生」の考え方が素晴らしいと感じました。
一般的に、野生生物に餌を与えることはよくないとされています。
僕自身も飼育動物でないなら、できる限り給餌はすべきではないと考えています。
しかし出水市におけるツルへの給餌は、「人と鳥が共生するために必要な手段」だったのだと思います。
日本のほとんどの地域で人が生活するようになり、ほとんどの場所に短時間で移動できます。
自然を保全しようと思った時、野生生物だけの楽園のような場所があれば人への影響は考えなくても良いかもしれません。
でも現実には人は全国ほぼ全てに分布しており、ほとんどの場合は人の生活との両立を考える必要があると思います。
そのためには地域で生活する人たちの理解・協力・歩み寄りを経て、人と野生動物の共生を模索していかなくてはなりません。
その考えを前提とすると、出水市の取り組みはそうすべきを得なかったと思いますし、そのために取り組んで行動しているのが素晴らしいと思います。
このように一方的でなく人と鳥の対立を解決できているからこそ、毎年ツルが飛来する場所を守り続けていられるのだと思います。(実際は、課題はたくさんあるのだとは思いますが)
ちなみに僕がツルの越冬地を訪れた際、地域の中学生たちがツルを熱心にカウントしている様子を見ました。
和気あいあいと、楽しそうにツルの話題をしていたのが印象的でした。
こうやって子供の頃からツルに関わる活動に参加することで、ツルへの愛着や関心が高まる。
そうして地域の方々の思いがずっと引き継がれているのだろうな、と感じました。
このような地元の自然環境を守る、知る取り組みがもっと全国に広がって、人と動物の共生を考えられるような地域が増えてほしいです。
鹿児島県出水市のツルたちの課題
先ほど紹介した通り、出水市には毎年1万羽以上のツルが、特にナベヅルは世界の生息数の90%が飛来します。
しかしながら、日本には出水市以外にまとまった数のツルが飛来する場所がありません。
この一極集中には、大きなリスクをはらんでいます。
もし出水市で伝染病が流行したら、この場所に集中しているナベヅルは絶滅の危機に追いやられてしまうかもしれません。
そのため、出水市では保護区に行くには消毒ポイントを通過するようにし、鳥インフルエンザなどの蔓延を防いでいます。
また、山口県周南市にツルを移送するなど、越冬地を分散する試みも進められています。
ツルたちが安定して飛来する場所が、もっと増えてくれたら嬉しいものです。
おわりに:出水市のツルに会いに行こう!
出水市のツルの現状を紹介してきました。
出水市には、ツルとの共存の取り組みの数々があります。
ぜひ一度、出水市の美しいツルたちを見に訪れてみてください。
また、クレインパークいずみでは、自然観察会を開催していたり、今後は市民参加型のツルの保全に関する活動も考えているとのこと。
ぜひこれらのイベントへも参加してみてください!
ツル自身に加えて、ツルたちを守る活動にも注目したり参加することで、ツルをより深く楽しめるのではないかと思います!
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