自然に関わる仕事や活動をしてみたいけど、手段が分からない、イメージできない…。
自然に関わる仕事って、どんな活動があるんだろう?
こんな悩みにお答えします。
上記のような悩みを抱えている方にお答えするため、"実際に自然に関わる活動をされている方"にインタビューをして来ました!
今回の主役は、池竹則夫さん。
神奈川県相模原市緑区(旧藤野町)の里山長屋(※詳しくはインタビュー内で紹介)で、自身がまさに「自然と寄り添う暮らし」を実践中。
(撮影:安藤 誠起)
池竹さんの「藤野植物観察会」は今や藤野だけに止まらず、日本各地で活動されています。
僕が「池竹さんの活動を知りたい!」と藤野を訪れたのは今回で2回目。
前回もそうだったのですが、今回もただ話を聞かせていただくだけでなく、実際の活動に参加させていただきつつ取材してきました。
池竹さんの活動のポリシーは「里山の自然を使うことで、里山の自然をより良くする」こと。
僕が実際に体験したことも交えつつ、お伝えしていきます!
池竹則夫さんへのインタビュー「里山の自然を使うことで、里山の自然をより良くする」
今の活動を始めたきっかけ【自然を壊す仕事ではなく、自然と寄り添う・自然と共生する暮らしへ】
池竹先生(※)が、今の活動を始めたきっかけ・経緯を教えてください。
※ 僕は、池竹さんのことを池竹先生と呼ばせてもらっております
僕はもともと学校で植物生態学ということを学んでいたんですね。
なので、それを活かせる仕事に就きたいと思っていました。
自然や生き物の知識を活かせる仕事の選択肢としてあったのは、"環境系や林業系の公務員"とか、主に民間企業が行っている"環境アセスメントに係る仕事"。
僕は環境アセスメントの仕事を選び、建設コンサルタント系の会社に就職しました。
環境アセスメント(環境影響評価)とは
緑豊かな自然、きれいな空気や水、静けさといった豊かな環境を将来に引き継いでいくことは、私たちに課せられた重要な義務です。そのためには、いろいろな開発事業を行うときに、環境の保全について配慮することが必要です。
開発と環境保全、この両者を、ともにうまく実現させていくために生まれたのが環境アセスメントです。
その会社では、道路・橋・鉄道など主に公共事業の設計などに携わっていて。
環境アセスメントには、生き物だけでなく大気汚染とか騒音とか振動とか色々あるんですけど。
僕のいたところでは、そうした開発が行われる際に自然・生き物に対してどんな影響があるのかを事前に調べる、という仕事をしていました。
調査した結果は、開発計画と重ね合わせて、生きものや生態系にどれくらいの影響があるかを予測します。
ふむふむ。
無視できない影響が予測された場合は、例えば"オオタカの繁殖期を回避した工事スケジュールにする"、"貴重な植物を開発の及ばない場所に移植する"といった環境保全対策を提案したりしていました。
そういった提案は必要性を多方面から検討した上である程度受け入れられます。
しかし開発が始まるということは、必ず何らかの自然破壊を伴ってしまいます。
確かにそうですよね…
20年近く仕事をやってきて、そういう方向の仕事よりも、"自然を守る、よりよくする側の仕事をしたい"という気持ちがだんだんと強くなっていったのですね。
それと、「東京の小金井市から都心に通う」という典型的な都会暮らしの生活に疲れてきたというのもあり、会社を辞めて田舎暮らしをすることにしました。
今までほとんどの場合、開発者側の立場で自然環境と接してきたのだけど、"これからは自然と寄り添いながら、自然とより良い共生をしながら暮らしていきたい"と考えたのです
里山長屋での暮らし【地元の資源で作られた家で、自然と寄り添いながら暮らす】
まず最初に、自分の家(里山長屋)を同じ目的意識を持つ仲間とともに建てました。
地元で得られた自然素材の木材・土などをできるだけ使った、伝統的な家を作ることにしたのです。
放置され荒れてしまいつつある地元の里山林(スギ・ヒノキ植林や竹林)を有効活用し、それが林の再生と循環にもつながればと考えました。
先生がこう語る通り、池竹先生たちが建てた里山長屋には、「人と自然の共生」の想いが随所に取り入れられています。
■ 建築構造
■ 建築素材
・竹は荒れた竹林の竹を自分たちで伐って使用
・壁土は荒木田土(旧荒川の河床)を利用
■ できるだけ再生可能エネルギーを使う
・薪ストーブを導入
このように、利用されることが少なくなって荒れつつある地元で植えられたスギやヒノキを伐って使うことで、植林地が活性化されて地元の林業の振興にもつながります。
災い転じて福となせる暮らしがしたかった。
この里山長屋を拠点にして、そうした暮らしを追求し、いろいろな人といっしょに広げていきたい。
ちなみに、里山長屋のお話は「里山長屋を楽しむ」という本になっており、
・里山長屋がどういった工夫をして作られたか
・建てる時にどういう苦労があったか
などが綴られています。(池竹先生も登場しますよ!)
現在の主な活動【植物などの自然資源を使うことでより良くしていく活動を主軸に】
池竹先生は、今はどんな活動を主軸にされているんですか?
会社組織に縛られない、フリーの調査員をしています。
環境アセスメントに係る調査の仕事もまだありますが、今は今日参加したような「醤油搾り」のような地域の活動をしたり、山を使いながらより良くして行く活動にシフトしていっています。
例えば、1つは手の行き届いていない人工林の間伐や、使われなくなって荒れてきた林内へのアプローチ路の再整備などをしています。
雑木林では、かつて燃料に使っていた昭和30年代ごろまでは15~20年間隔で伐採し、伐り株から発芽した萌芽を高さ10m程度に育てることで、元の林を再生させていました。
しかし、石油や石炭などにエネルギー源が代わったことで、次第に放置されるようになってしまいました。
成長して大きくなりすぎた木が台風とかで倒れたりすると、土砂崩れが起きやすくなったり、家に倒れかかっちゃったりしますよね。
それをちゃんと使いやすく、林災害にも強く、しかもいろんな動植物が住むかつての雑木林に戻したいと思っています。
具体的には、家(里山長屋)づくりの際に薪ストーブを導入したほか、最近は炭焼きグループに入れてもらって雑木林を伐採しています。
伐採によって、林の若返りが図れたらいいなと思っています。
伐採した木を薪や炭焼きなどに活用することで、地球温暖化の原因となる化石燃料の消費を減らすことにもつながるんです。
また、竹林の管理も携わっていて、竹林を間伐して得た竹をパウダー状にして、田んぼや畑の土壌改良材にして一部販売もしています。
竹林を間伐すると竹林の景観も良くなるし、タケノコが多く出るようにもなるんですよ。
人が自然を使うことで自然もより良くなる。まさに人と自然の共生ですね!
うん、人と自然がwin-winの関係ですよね!
これがもうちょっと広がって行くといいんですよね。
醤油搾りに参加【醤油は、地域の自然や人の力を結集して完成する】
取材した日に参加させていただいた、醤油搾り。
何ヶ月も掛けて仕込んだもろみから、醤油を搾っていきます。
様子を見ながら丁寧に醤油を搾って、搾った醤油は温度を測りながら火入れをして仕上げていきます。
この量の醤油2杯分を絞るのに、7人掛かりで作業して半日(5時間)ほど掛かりました。
醤油の主役である大豆や小麦はもちろん、スギやヒノキ、サワラで作られた道具たちも自然の素材から伝統技術によって作られたもの。
醤油に火入れをする際にも、自然の素材たちが使われています。
近場で伐採した木や竹などを薪として使いました。
・太い木:火力は強くないが、長くじっくりと火力を持続させることができる。
・竹:火力を上げるのに最適。燃え尽きるのは早いけどバンバン炎が上がります!
こんなことも、実際にやってみないと分からないことですよね。
本来の醤油は地域の自然や人の力を結集し、工夫を積み重ねていくことで、ようやく作られるものなのですね。
藤野植物観察会の活動【植物を生活に活かしていくことを知ってもらいたい】
あと、都会で自然とかけ離れた生活をしている人に、自然とその活用方法などを紹介しています。
大変おこがましいのですが、この活動が自然との繋がりを取り戻すきっかけになればと思っています。
藤野植物観察会ですね!
池竹先生は、生活への活かし方を特に重視してらっしゃいますよね?
そうそうそう。
こういうとまたしてもおこがましいのですが、普通の自然観察会って、「この花きれいだね」「この植物は珍しいです」とかで終わっちゃってることが多い気がするんです。
それだと身近な生活との関わりや繋がりが見せられない。
できたら生活に活かしていく、というのを伝えていきたいですね。
例えば、食べられる・薬になる・繊維が取れるとか、あとは燃料になるというのもあるし。
料理とかお茶にする以外にも、粉末にして抹茶みたいにする、のような使い方もあって。
観察会では説明以外のことも試していて、例えばトウネズミモチという植物の果実から作ったお茶を味わってもらって、美味しいと感じるか感想を聞いたりしています。
※ トウネズミモチは中国原産の樹で、大気汚染に強く成長も早いので工場緑化や街路樹として大量に植栽された。
トウネズミモチの果実
主にヒヨドリが果実を食べて種子を運ぶことにより、分布域を拡大中。
ヒヨドリ
ヒヨドリが、日本在来種のネズミモチの実よりもトウネズミモチの実のほうを好んで食べるため、トウネズミモチの拡大を助けてしまっているとのこと。
こういった、いわゆる「困りもの」の植物も人間の生活に活用できるんですね。
僕も池竹先生からトウネズミモチ茶を振る舞っていただきましたが、クセもなく飲みやすいお茶でした。
ちなみに、醤油搾り中にはビワから作ったお茶もいただきました↓
色々な身近な植物を具体的な形に変えて活用できるなんて、素晴らしいです!
あと今ちょっと考えているのは、"子供を通して、その親にもメッセージを伝えていく"ということ。
観察会で植物ビンゴゲームというのをやったんですよ。
前半に観察し解説した植物でビンゴを作って、後半にその植物を探して、3つ揃ったらビンゴ!というルールなんですが。
すると、子供よりも親の方が真剣になって探して来たりすることもあるんです。
分かります!
僕も生き物のゲームアプリなど配信していますが、お子さんと一緒に家族でやってくれていたりして、嬉しく思うことがあります!
そもそもこういう仕事やるようになったのは、子供の頃に虫捕りとか魚釣りとか、いっぱいやったからなんです。
そういうことを経験していないと、身近な生き物たちが自分とは全く別世界のものとなって、近寄り難くなっちゃうんですよね。
だからこの活動で、自然は自分たちの生活に密接に関わっていて、活かしていくことができる、ということまで知ってもらいたい。
そうすることで「自然を守りたい」「繋がりたい」という気持ちが理屈抜きに強まると考えています。
こうやって里山の活動に関わってみようかなとか、自然と寄り添う暮らし楽しそうだな、と思ってもらえるように繋げたいですね。
未経験でも自然に関わる活動に協力できるのか?
自然に関わる活動をやりたいと思った時、未経験でも活動に参加してお役に立てることはありますか?
もちろん!まさに今日の亀田さんが来てくれたことがそうですよね。(※)
※取材した日に人工林管理の活動に参加させていただきました
どの活動も、とにかく人手が欲しい状態!
来てもらえたら必ずやることはあるので、大歓迎です。
それに経験がなくても、体力があるとか、手先が器用とか、人によって得手不得手がありますよね。
僕は力仕事はできるけど、細かい作業は得意じゃないんです。
いろんな人が来たら、それぞれの得意分野がありますよね。
手伝いに来てくれて、不得手なところを補ってくれるのはとても助かります。
植物観察会で来てくれた人に、次なる自然にかかわる活動への参加を促す告知やアピールができたらとは思うのですが、まだあまりできていません。
その辺りは今後の課題ですね。
ちなみにどういう形で声を掛けられるのが良い、とかありますか?
あまりに見ず知らずの人だと対応に難しい場合があったりするので、まずは植物観察会などで一度お会いしたり、すでに会ったことのある方からの紹介だとやりやすいですね。
なるほど。
接点がない場合はまずは植物観察会で一度池竹先生にお会いして希望を伝えてみるのが、スムーズかもしれないですね!
以下のfacebookページで藤野植物観察会やイベントへの案内がされますので、池竹先生の活動に興味のある方は、ぜひこちらから参加してみてください!
人工林管理に参加【木材をどうやって人の生活に活かすかが課題】
人工林整備の活動にも参加させていただきました。
人工林の進め方について説明してくれる池竹先生↓
今回僕は、間伐の作業を初めて体験しました。
竹林にしても人工林にしても、それらが放置されてしまっているのは、結局林を活かしきれていないことが大きな原因。
なので木材などをどうやって活かすのかがキモで、間伐した竹をどう活用できるのか、色々と模索中とのこと。
伐採した竹
自由に広がりすぎてしまった竹たちがどのように人の役に立つ姿に生まれ変わるのか、楽しみです。
整備作業以外にも、木材の活用方法に関するアイデアを出すことも、竹林や人工林の放置問題の解決には大切な貢献になりそうですね!
おわりに
今回は池竹則夫さんの活動について、朝から夜まで、実際の活動に密着しながら取材させていただきました。
植物に関する豊富な知識を持つだけでなく、何よりも自然を実際の生活に繋げて実践しているのがすごいですよね!
また、池竹先生の自然への愛情や熱い想いを改めて感じた取材でした。
僕も今後も時折藤野の活動に参加させていただき、引き続き学ばせていただきたいと思っています。
この記事が、人と自然が寄り添う暮らしに少しでもつながれば幸いです。
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自然や生き物に関わる活動を知りたい!