絶滅危惧種って、どうして守らなくてはいけないの?
こんな疑問にお答えします。
絶滅危惧種とは、個体数が減っていて絶滅の恐れの高い生物種のことで、例えばカブトガニやクロマグロ、コウノトリなどがいます。
以前当ブログで紹介した、トモエガモも絶滅危惧種ですね。
トモエガモ
これらの絶滅危惧種は、「守るべき・絶滅を避けるべき」と言われますが、
何種かが絶滅したとしても、人間の実生活にそれほど大きな影響はないのでは?
と思う人も多いかもしれません。
しかし、種の絶滅というのは、実は人間にとっても大いに影響があります。
もちろん種によって影響は違ったり、影響度を完全に予測はできないのですが、たった1種の絶滅が僕らの生活を大きく変えてしまうことも、あり得ます。
種の絶滅を防ぐ対策をするのは決して綺麗事や趣味のようなものではなく、一番の理由は人の生活を守るため、なのです。
僕はネイチャーエンジニアの亀田です。
年間100回以上全国各地で生き物観察をし、様々な生き物に出会ってきました。
そんな生き物好きの僕が、「絶滅危惧種はなぜ守る必要があるのか」について紹介します。
種の多様性とは
絶滅危惧種を守るというのは、「”種の多様性”を守る」とも言い換えられます。
種の多様性とは、生物多様性条約で定義される3つのレベルの中の1つです。
・生態系の多様性
・種の多様性
・遺伝子の多様性
生物多様性とは、端的に言うと、”幅広く、様々な性質を持つ生物がいること”。
この生物多様性は、「豊かな自然」を測るバロメータでもあり、生物多様性が高いほどより豊かな自然であると言えます。
これを踏まえると、種の多様性を守るとは、”幅広く、様々な種がいる状態を守る”となります。
ちなみに「種」とは、生物分類上の基本単位のことです。
例えば、「カブトムシ(ヤマトカブトムシ)」は昆虫という大きなグループの中の1種。
カブトムシ
「スズメ」は鳥類というグループの中の1種です。
スズメ
他にも、爬虫類であれば「ニホンカナヘビ」、両性類であれば「ニホンアマガエル」、魚類であれば「メダカ」など、様々な種がいます。
これらの種のバリエーションが多いほど、種の多様性が高いと言えるのです。
絶滅危惧種を守るべき理由
それにしても、種の多様性が高いことは、なぜそんなに大事なのでしょうか?
それは、どんな生物も少なからず異なる種とバランスを取り合って生きており、そのバランスが崩れてしまうと、多様性全体に影響を与えてしまうことがあるからです。
例えば、今の日本ではシカが増えてしまい、農作物を食べられたり、山の下草を食べ尽くされたりしてしまうことが問題になっています。
シカ(エゾシカ)
この原因の1つには、”絶滅してしまったある種”が関係していると考えられています。
それは、かつて日本の森林に生活していた「ニホンオオカミ」「エゾオオカミ」。
このオオカミたちは、シカの主な天敵でした。
ところが、オオカミが絶滅してしまったことで、鹿の個体数のバランス調整役がいなくなってしまいました。
その結果、シカが増えすぎて、生息地の植物たちを根こそぎ食べ過ぎるようになってしまったのです。
このように、たった1種の絶滅が、連鎖的にバランスを変えていき、結果的に大きな影響を与えてしまうことがあります。
ただ、難しいのが、ある種の絶滅が「未来、どこにどれくらいの影響を与えるかを予測できない」と言う点があります。
日本のオオカミたちが絶滅したのは1900年頃。
シカ問題がここまで大きくなるまでには、100年ほどの時間が経過しています。
オオカミたちが絶滅した直後には、100年後のこの状況を予測することはできなかったでしょう。
このように、ある種の絶滅は人の生活に大きな影響を及ぼす可能性があり、それを予測することは困難です。
人が今の豊かな自然資源を利用し続けるためには、種の絶滅をできる限り避け、現在のバランスを守っていくことが大切なのです。
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現在の種の多様性の状況
現在、世界的に生物種の絶滅は加速しています。
残念なことに、なんと1日約100種が絶滅していると言われているほどです。
人を含めたどんな生き物も、他種とバランスを取り合って生きており、依存関係にも偏りがあります。
虫を食べるものもいれば、魚を食べるものもおり、植物の果実を食べるものもいれば、植物の花蜜を吸うものもいる。
多様性があるからこそ、多様な生き物が生きられるわけです。
種の多様性が低いと人間も生きにくくなるわけであり、種の絶滅は多くの場合、悪い影響をもたらすでしょう。
実際、生物減少の影響は人の生活にもすでに出始めています。
ウナギやマグロというと多くの日本人が大好きな食材ですよね。
しかしニホンウナギやクロマグロはすでに絶滅危惧種となっており、もはや好きに食べられるような状況ではなくなってきています。
これら以外の種でも様々な魚の漁獲量は年々厳しい状況になっており、このまま種の多様性が減り続ければ、海の幸が簡単に食べられなくなる日がやってきてしまうかもしれません。
また、これは海以外の方面でも考えられることです。
例えば、野菜や果物が増えたり果実を作るには「受粉」が必要ですが、この受粉を大いに助けているのが「ハチ」です。
受粉を助けるトラマルハナバチ
彼らは人間が食べる多くの農作物の受粉も助けているため、もし彼らがいなくなればコストをかけて人工的に受粉を行うしかなくなります。
どれほどの影響力があるかというと、「もしハチがいなくなったら人間は数年で滅亡する」と言われるほどです。
昆虫の数も世界的に減少の一途を辿っており、このままいくといつか大きな影響が顕在化することが懸念されます。
このように、あらゆる種の多様性が人に恩恵を与えてくれているため、種の絶滅を防ぎ、これらの多様性を守っていく必要があるのです。
外来種の驚異
種の多様性を脅かす驚異の例に「外来種」があります。
外来種とは、人の手によってもともと生息していなかった場所に持ち込まれてしまった種です。
日本で見られる代表的な外来種の1つに、アメリカザリガニがいます。
アメリカザリガニ
多くの外来種は移入先の環境に適応できずに定着することができませんが、もし適応できた場合、種の多様性のバランスを崩すことがあります。
アメリカザリガニは水田や沼にいるヤゴや小魚などの生物を食べてしまうほか、水草を刈り取る習性があります。
その結果、移入先の環境を大きく変え、多様性を損なってしまうのです。
このような生物多様性を脅かす恐れのある外来種を「侵略的外来種」と言い、特に注意されています。
ちなみに時折、「稚魚の放流」「ホタルの放流」などのニュースがメディアに流れますが、これらを受けて安易に真似するのはちょっと危険です。
本来生息していない生物が入ることで、元の生態系に影響を与える可能性もありますし、生物多様性の1つ下のレベル「遺伝子の多様性」も脅かす可能性があります。
このようなことから、人の手による生き物の移動は、慎重にしなければならないのです。
おわりに
今回は「絶滅危惧種を守る理由とは?」というテーマから、「種の多様性」について紹介しました。
「絶滅危惧種を守る」というと、生き物好きの間での話であったり、趣味・趣向の話のように捉えられることがありますが、実は”全ての人の生活に影響する話”です。
人間がこれからも豊かな生活をし続けるためには、生き物を絶滅しないようにし、種の多様性を守ることが必要なのです。
ちなみにこの記事では理屈っぽくお話ししましたが、僕個人としては損得抜きにしても、たくさんの生き物が観察できる自然が大好きです。(これも生態系がもたらす「文化的サービス」という恩恵になります)
なので、僕も多様性を守るためにできることをしようと活動しており、この発信もその一環です。
この記事を読んでもらえたことで、種の絶滅をさせない必要性が少しでも伝われば、幸いです。
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